内と外をゆるやかにつなぐ『土間』のある家

あののぉ vol.67 2024 春号01

高松市の中心部に近く、周囲には住宅街やオフィス、学校などが点在する一角。近くには地域の人たちに親しまれる「はちまんさん」があり、四季折々に行われる祭事では、町全体がにぎわいを見せます。

どこか昔ながらの風情を残したこの町に暮らすのは、人とつながることが好きで、暮らすことや食べることなど日々の営みを大切にしているOさん一家。3人のお子さんたちがまだ幼かった8年前に建てたこの家に、「住めば住むほど愛着が沸く」とご夫婦は口を揃えます。そんなご家族の暮らしぶりを取材しました。

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室内から外を眺めた時の開放感は想像以上。可動式扉も使い勝手が良い

信頼できる人たちとの出会い

住宅や店舗、オフィスなどが立ち並ぶ通りに面して建つO邸。一歩家に入ると、すぐ前の通りの喧騒は不思議なほど気にならなくなり、木のぬくもりに包まれた開放的な空間が広がります。庭とリビングの間にあるのは、太陽の光がさんさんと降り注ぐ広い土間。室内にいながら風に揺れる木々を眺めていると、ここが街中であることさえ忘れてしまいそうになります。

こちらに暮らすOさん一家は、ご夫妻と小学生から中学生まで3人のお子さんを含む5人家族。8年をこの家で過ごし、子どもたちはぐんと成長しましたが、家にいるときは今も変わらず自然とリビングに集まってきます。宿題も遊びも、時には訪ねてくる友人たちが加わりながら、おだやかに過ごす日々。何気ない日常のひとコマです。

ご夫妻がここに家を建てたのは2016年のこと。それまではアパート暮らしだったものの、「いつかは家を建てよう」と温めていた思いを、長女の小学校入学前に叶えることにしました。利便性なども考えて、できるだけアクセスがしやすい街中で暮らしたかったというのが、この場所にした一番の理由だったそうです。

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左≫写真は植栽した当時のもの(2016年)。家族みんなで植えたシンボルツリーのアオダモなど、植栽は設計士の願化がセレクト 右≫外からは見えず、内に圧迫感を感じさせない絶妙の高さに設計された外塀

土地が決まり、家を建てる段階になってさまざまなハウスメーカーの見学会に足を運んだOさんご夫妻。見学会に参加することは時間も労力もかかるため、そろそろ次が最後と思っていた時に出会ったのが、菅組でした。

「いろいろ回って見て検討していたところ、最後に足を運んだ見学会で出会ったのが、菅組の営業担当の方でした。話していくうちにその方の人柄に惹かれ、妻も私も『この人ならまかせられる!』と直感しました」とOさん。

その場で営業担当にそれぞれの希望や、機能面からデザイン面までを含む家づくりの思いを話したご夫妻。「それならぴったりの設計士がいますよ」と伝えられ、ファーストプランの仕上がりを待つことになりました。

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左≫絵や習字を貼った壁裏は収納スペース 右上≫来客が多くても土間があれば安心 右下≫夏にはここで流しそうめんも

土間を生活の中心にした理想的な住まい

Oさんご夫妻の感性に合う設計士として紹介されたのは、菅組の願化(がんけ)。最初の営業担当からのヒアリングを経て提案された設計図を見て、奥様は驚いたと話します。

「夫婦ともに説明が得意ではないのに、家づくりへの思いをきちんと汲み取ってくれて、理想の生活を実現できるような図面を描いてくれていました。営業担当の方がとても的確にヒアリングをしてくださったのも嬉しかったですし、私たちの気持ちの部分にも配慮しながら設計してくれたことにも感激しました」

まず希望として伝えたのは、土間と庭があること。街中の住宅地でゆったりとした住環境を実現するのは、簡単なことではありません。ただ、広い部屋をつくることより、土のついた新鮮な野菜をちょっと置いておけたり、庭で水浴びをした子どもたちが気兼ねなく着替えたりする場所として、土間は家族にとって必要なものでした。その希望を叶えるため、願化設計士は家が面した道路から駐車場、庭、土間、室内へとゆるやかに傾斜をつけ、さらに外からの視線を遮るため、駐車場と庭の間には圧迫感を感じない高さで塀を設置する提案をしました。

そうすることで、真冬以外は室内と縁側の間の戸を開けておき、土間を介して庭とゆるやかに繋がる大空間が実現。真冬は戸を閉めておくことで室内の暖かさが逃げず、土間は気温が下がるので切り花を飾ったり、野菜などの保管にも適しているのだそうです。

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左≫2階の寝室には小さな和室。まるで秘密基地のように落ち着く空間 右≫キッチン収納は造作。木の質感で統一

経年変化を感じることも楽しみの一つ

ファーストプランから大きく変えることなく、願化との打ち合わせでは細部の検討に時間をかけたOさんご夫妻。奥様からの要望で、明るい窓に向いて設置したキッチンの窓辺には、小さな花器が四季の彩りを添えています。また動線にも配慮し、お子さんの学用品の収納スペースをリビングの壁の裏に確保したり、2階の廊下に沿ってファミリークローゼットをつくったりと、限られたスペースを有効に活用できるような工夫も随所に施されています。

今後は子どもたちの成長に合わせて、子ども部屋の改装や植木のメンテナンスをしていきたいと話すOさんご夫妻。暮らしは常に変化するもの。だからこそ、何かあったときに相談できる関係性ができていることは心強いと話します。

「風合いも住み心地も、住むほどに良くなる家だと感じています。今度は住んで15年目くらいにぜひ取材に来てください。もっと味わいのある家になっていると思います」

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左上≫2階の廊下脇のクローゼット。扉の代わりにカーテンで仕切る。干したものをそのまま取り込めて機能性もバツグン 右上≫庭と玄関の間は駐輪するのに最適 下≫戸を閉めると気密性が高まり冬も暖か

場所:香川県高松市
竣工:2016年6月
延べ床面積:109.09㎡(33.05坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:株式会社 菅組

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