四季の移ろいを感じる、趣味の家

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例年よりもずいぶん早く桜の便りが届き、うららかな陽気に包まれたある日。桜の名所として知られる青ノ山の麓に建つI邸へと向かいました。

市街地からゆるやかに蛇行しながら頂へと続く坂道の桜並木も見ごろを迎え、咲き競う木々の間からは陽射しを受けてキラキラと輝く瀬戸内海を一望することができます。明媚な眺望を誇るこの地にI邸が完成したのは、昨年の葉桜の頃。「ようやくこの家で満開の桜を堪能できる」と微笑むご夫妻にお話を伺いました。

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photo≫I邸の外観

「住まい」の大切さに気づく

背後の山の緑に映える真っ白な外壁が印象的なI邸。軒や小庇が生み出す陰影が時の経過とともに形を変え、シンプルなフォルムに立体感を醸し出しています。住居部分からつながるガレージには、ご主人の趣味である愛車がずらり。仕事からは一線を退いて自由な時間を持てるようになった今、日々を楽しんでいる様子が伝わってきます。

この家を建てるまで、意外にも「自分が家を建てるなんて考えたこともなかった」と話すご主人。以前の住まいは1階と2階が仕事場、3階が住居という環境だったそうで、家には寝るために帰るだけという多忙な生活が何十年も続いていたのだそうです。「従業員もお客さんも同じ建物に出入りするので、当時はオンもオフもなかった。家にいても休まらないので、息抜きのために外出するような日々でした」と奥様。

事業が拡大していくほどに、人は増えていく。さて、このままで良いのかと考えていたご夫妻に、転機が訪れたのは3年ほど前。海を臨む絶景のロケーションに建築中だった息子さんの家が完成し、その暮らしぶりを見たり、家の良さを聞くうちに「住まいの心地良さは人生の豊かさに直結する」と実感。ならばと思い立ち、ついにIさんご夫妻の家づくりが始まりました。

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photo:左≫吹抜のあるリビング 右上≫高台に建つI邸。幹線道路にほど近いがとても静か 右中≫窓から見える桜。時が経つのを忘れるほどの心地良さ 右下≫時間があればいつもここにいる、と話すご主人

感性にフィットする設計

Iさんご夫妻と当社の出会いは、家を建てるきっかけとなった息子さんの住まいを当社が建てたご縁から。まずは場所探しからはじまり、眺望の良さと利便性の高さを天秤にかけた末に現在の場所にたどり着きました。家については、当初から心地良さや住みやすさを重視していたご夫妻。家にいる時間が一番楽しいと思えるような空間を、何よりも望んでいたと話します。

その上でご主人からは「趣味に没頭できるガレージが欲しい」、奥様からは「便利な家事動線を」という希望がありました。そこで、お二人が思う「心地良さ」のイメージを共有するために、設計士が何度も打ち合わせを重ねていきました。趣味や嗜好、生活サイクルなどを聞き、希望に沿う設計プランを立てるという流れを繰り返すうち、ご主人にはある気づきがあったのだそうです。

「デザインについては、当初から設計士さんにおまかせするつもりでいました。でも話せば話すほど僕と似てるんですよ、感性が(笑)。北欧のアンティーク家具が好きなのも、バイクが好きなのも同じ。感覚がずれていないので、設計図が上がってきたときにも、希望がちゃんと形になっていると感じました。自分が良いと感じるものを共感してもらえる設計士さんに出会えたことは、とてもラッキーでしたね」とご主人。

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photo:左≫奥様の仕事部屋はガレージに隣接。ご夫妻が思い思いに過ごす 右≫2階からの眺望を楽しみつつ、ジャズを聴くのが至福の時

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photo≫異素材が調和するリビング。吹き抜けやガラスの扉が空間に広がりをもたせている

室内に風が通る道をつくる

Iさんご夫妻が揃って「期待以上の仕上がりだった」とお気に入りなのが、吹き抜けになったリビング。「木の家は好きだけど、現しになる木のボリュームはあまり多くない方が良い」という希望に対し、設計士が提案したのは「シンプルな白を基調としつつも、構造材の一部を見せることで木のぬくもりを出す」ということでした。そこで薪ストーブやスチール階段といった、それぞれに異なる質感をもつ素材をミックスさせることに。広い空間がすっきりと引き締まり、一体感も生まれました。梁や柱に使った檜の木目があまりにも美しく、初めて見た時にご主人が思わず「本物?」と聞いたというのも印象的なエピソードです。

空間づくりにおいては、室内の風の流れも意識しながら設計が進められました。南西に面したダイニングスペースにある掃き出し窓は開放口を大きくとり、市街地の眺望や春の桜を楽しめるようにしました。その窓から入る風はダイニングからリビングを通り、続く木製の扉を開ければ玄関や奥さまの事務作業室、そして最終的にはガレージへと抜けていくような間取りとなっています。

さらにご夫婦それぞれの個室がある2階はロの字に回遊できるようになっており、リビングの吹き抜けに面して窓や扉があります。寒い季節にはその窓や扉を開けておけば薪ストーブの熱が各部屋へと流れ込み、家のどこにいてもじんわりと温かさを感じることができます。

また奥様ご希望の家事動線については、キッチンからパントリーを通り、脱衣室や浴室へとつながる動線を確保。リビングと壁を隔てた動線なので、急な来客がある時には目隠しにもなると、その使い勝手の良さを気に入っているのだそうです。

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photo≫機能的でありつつ、センスの良さを 感じるガレージの内部

趣味とともに暮らしを楽しむ

ご主人が一番こだわったガレージは、外観は住居と同じ白を基調としつつも、シャッターを開ければ印象が一変。中には海外製クラシックカーやビンテージバイクが所狭しと並び、さながら専門雑誌のグラビアのよう。黒とグレーの壁面に沿って据え付けたメタルラックは、ボルトで高さを調整できるオーダーメイドで、レザージャケットやヘルメット、工具などが機能的に整頓されています。細かなこだわりが各所に詰まっていて、時間を見つけてはここで作業をしているというのも納得です。

家を建てて1年が経ち、改めて住んでみた感想を聞いてみました。
「鳥のさえずりに耳を澄ませたり、植栽の手入れをして四季を感じたり。そうした日々の気づきに癒されています。普通に暮らすことでこんなに幸せを感じられるんだって、しみじみと。前は外出ばかりしていたけど、今は外に出たくないくらいに家が好き(笑)」と奥様。

最近ではプチ同窓会や出張シェフを招いた食事会なども楽しんでいるIさんご夫妻。「親しい人達を呼べる家に住んでいることが嬉しい。これからも楽しみ方がもっと増えそうですね」と笑顔で話す姿が印象的でした。

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photo:左≫ガレージのラックにはライダースジャケットがずらり 右≫北欧のアンティーク家具などでまとめた 室内でくつろぐご夫妻

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photo:上≫見せると隠すがバランスよくデザインされたキッチン  下≫家のどこにいても明るく、快適な室温が保たれている

場所:香川県丸亀市

竣工:2022年5月

工事床面積:173.62㎡(52.60坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:株式会社 菅組

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