讃岐舎を未来へ繋ぐ
梅の香りが風にのって春を教えてくれた朝。野鳥のキジがひょっこり姿を見せる、のどかな高松市の郊外で暮らし始めて5年目を迎えるSさんの讃岐舎を訪れました。
お邪魔すると、いつも子供たちが笑顔で迎えてくれます。大黒柱伐採ツアーに参加された時はまだ幼かった子供たちですが、H君は福々と健やかに大きくなり、長女のAちゃんはしっかり者のお姉ちゃんになりました。この5年で大黒柱に刻まれた背比べの印も、もう少しでお母さんに追いつきそう。
写真:小上がりの畳スペースで遊ぶH君。太い柱がSさんと一緒にまんのう町の山で伐採した檜(ひのき)の大黒柱
ふつう。だけど、特別な家。
ご主人が「住み心地はどうですか?」と子供たちに聞くと、「さいこー!冬は木のぬくもりを感じて、夏は風が通ると森のように感じる」と答えてくれました。絵本を読んでいるかのような言葉に、私は心から感動していました。
Sさんのお家には本や絵本がたくさんあり、ゆとりのある階段はギャラリーになっていて「今日のオススメの本」や子供たちの個性豊かな絵など、目に留まるものばかりが飾られています。2階の「読書スペース」にはご夫妻の雑誌や本、小説が並び、ご主人がいつも座っているという一人掛けの椅子からは、のどかな景色が広がっています。越屋根のあるロフトへは梯子がかけてあり、大人でもワクワクするスペースです。そしてここはH君の秘密基地。サンタさんにもらったジク社製のミニチュアカーを得意げに披露してくれました。ご主人が毎朝ここに上り越屋根の窓を開けると、風が家中を流れるそうです。なるほど、確かにそれは森のような家だなと思いました。
奥さまは「ただただありがたい。いろんな人が関わってこの家を建ててくれたから」とおっしゃいました。Sさん家族にとっての住み心地とは、決して快適さや使いやすさだけでは計れないものなのです。
写真:無垢の木の床にもしっかりとご家族の成長の跡が残っていました。作家さんにつくってもらったステンドグラスのライトが食卓を灯します。
写真上:2階のミニ読書スペース
写真右下:讃岐舎オリジナルキッチン
写真左下:玄関周り。表札は「桜製作所」で制作したもの
ただの家づくりではない。 讃岐舎からつながる世界。
「大黒柱伐採ツアー」で林業家の豊田さんと一緒に伐採した木が、この家の中心に並び、支えています。我が家の木はどこの山でどんな人が育てた木なのか。製材する人、加工する人、大工さん。それを知ることで、この家は香川の山につながっているのだと実感でき、本当に愛着がわく特別な家になったと言います。
また、讃岐舎を建てたことで、暮らし方の意識にも変化があったそうです。「家をひとつ建てることが、ここの環境も変えるし、山の環境も変える。いい影響なのか、悪い影響なのかを考えるきっかけとなり、小さな買い物でも家を建てることと同じように想像するようになりました。他にも、ここを通る人にとってこの家は生活の一部であり、町並みでもあり、風景。自分たちの家だけどみんなのもの。讃岐舎を通じて、人や自然とつながる意識をもつようになりました」
讃岐舎としては64棟目にあたるSさんの家。ある時Sさんが、家を建てた大工をご自宅に招く機会がありました。大工の仕事は完成前の95%まで。あとは内装屋さんが入るから、完成した家を見ることは少ないと聞いて「それはもったいない!完成した家を見ることはこれからの大工人生にとって大事だと思って」と。そんな気遣いも、いろいろな人と関わり、思いを繋いで讃岐舎を建てたSさんだからこそなのだろうと、逆に私たちがその意味を教わる印象的な出来事でした。
写真上:ロフトの一角は、子供たちの秘密基地に
写真右下:階段ギャラリー
写真左下:家族の大切な一員の愛犬と奥さま
写真上:越屋根の内部。毎日小窓を開閉する
写真右下:明るい光が差し込む娘さんのお部屋
写真左下:娘さんが季節に応じて描き続けている おもてなし黒板
実は菅組スタッフはSさんのお宅に幾度か伺っていますが、何回訪れても飽きません。訪れるたび、Sさんのお家がこの町にしっくりと馴染んでいくのがわかります。「こんな家に帰りたい」、そう思わせてくれる家です。それはこのご家族のもつ空気にも似ているからかもしれません。
玄関に上がるとまず目に入ってくる、柱に立てかけられた小さな黒板に描かれた手描きのイラストに「ようこそ」の文字。「娘がいつも描いているんです。知らないうちに」とほほ笑む奥さま。今回はかわいい鬼が笑って出迎えてくれました。きっとここを訪れる人は、こんな細やかなおもてなしに癒され元気をもらい、またSさん家族に会いたいと思うのでしょう。
高松市 讃岐舎S邸
2016年8月竣工
延床面積:144.00㎡(43.64坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:(株)菅組
ウッドデザイン賞2020を受賞
お宅訪問でご紹介させて頂いたS邸に代表されるコンセプト住宅「讃岐舎」一連の作品が、ウッドデザイン賞2020を受賞いたしました。香川県では初の受賞となります。
ウッドデザイン賞(主催:ウッドデザイン賞運営事務局 林野庁補助事業)とは、「木」に関するあらゆるモノ・コトを対象に、暮らしを豊かにする、人を健やかにする、社会を豊かにするという3つの消費者視点から、優れた製品・取り組み等を表彰するものです。これによって、「木のある豊かな暮らし」が普及・発展し、日々の生活や社会が彩られ、ひいては国産材の需要が拡大し、適正な森林整備が進むことを目的としています。(受賞部門:ハートフルデザイン部門)