海とともに暮らす家

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瀬戸内海を一望できる緑豊かな場所に、優雅にたたずむ一軒の家。
ひとたび足を踏み入れると、そこには海や里山が織りなす讃岐の風景をより美しく、表情豊かに味わうことのできる住まいがありました。海がある暮らしを日々愉しみ、家とともに穏やかな時を重ねるWさんご夫婦を訪ねました。

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三豊市詫間町にある、木造2階建ての一軒家。Wさんご夫妻が暮らすこの家は、自然の恵みをふんだんに取り入れた、海が見える住まいです。クルーズが趣味で、瀬戸内海には毎年のように船で訪れていたというご主人。何度も足を運ぶうち、穏やかな海のある暮らしに魅せられて三豊市への移住を決めたと言います。

最初は、小さな隠れ家のような住まいにしようと考えていました。しかし、海に面したこの土地をひと目で気に入り、設計士と話をするなかで、家への夢が縦へ横へと大きく広がっていったそうです。こうして、讃岐の地に魅せられたご夫婦の、海とともに暮らす日々がはじまりました。

家を建てるとき、ご主人が希望したのは「ストーリーのある家」でした。玄関へと続く緩やかなアプローチから、住まいのストーリーは始まります。1歩、また1歩と歩みを進めながら、おおらかな讃岐の風景と四季の移り変わりを味わうことができます。

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玄関を開けると、視線の先には静かにきらめく瀬戸内海が窓一面に広がり、ご夫婦や訪れた人たちをあたたかく迎えてくれます。リビング・ダイニングは天井や床の木目と白壁がやわらかく馴染み、自然に包み込まれるような心地よさ。キッチン奥の窓には緑が覗き、里山の息づかいが聞こえるかのようです。

この家の大きな魅力のひとつが、窓越しにさまざまな景色を望めることです。たとえば、海を一望できるリビングにある、3枚の大きな窓。窓枠を額縁に見立て、1つの景色を3枚に切り取ることで、それぞれを刻一刻と表情を変える風景画として愉しむことができます。

リビングだけではありません。寝室には、あえて縦長の窓が設けられています。他の窓と高さをそろえたほうがいいのではと、奥様ははじめ思ったそうです。しかし、いざ暮らしてみると、縦に長いおかげで朝日がやわらかく差し込むことに気づいたと言います。窓からは海と里山、樹木が見え、自然が織りなす風景はまるで山水画のよう。家を通して景色を見ることで、その土地の豊かさや美しさをより深く味わえるのです。

「この家には何枚もの画があるので、1つの景色でも見飽きることがありません」とご主人。海がある風景も、切り取り方によってこうも見え方が変わるのかと、新たな発見に日々驚くそうです。四季折々の変化を感じられる住まい。そこには海や里山、太陽や月が教えてくれる刻の流れに、そっと身を任せたくなる心地よさがありました。

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家づくりは風景づくり

海が見える大きな窓のほかに、リビングダイニングでひときわ目を引くのが薪ストーブです。静かにゆらめく橙色の炎が、寛ぎの時間をもたらしてくれます。

薪ストーブはご主人の希望でした。都会で暮らしていると、自然の炎の色や音、香りを直接味わえることはなかなかありません。薪ストーブの準備や手入れには手間がかかりますが、今ではそれも楽しみの1つ。手をかけながら一緒に暮らしていける住まいがいいと、ご主人は言います。

そして、家を建てるうえでご夫婦がこだわった点がもう1つ。それは、行き交う人や町並みにも優しい家であること。外壁に焼杉を使った落ち着きのあるたたずまいは、里山の風景にしっくりと馴染んでいます。土地を整え、家を建てたことで、ご近所の窓や車道からも穏やかな海が見えるようになりました。

「家づくりは風景づくり。そう考えると、より楽しくなりますね」とご主人。讃岐の風景をつくる家でありたい――。多島海を見ながら暮らす家は、住まい手とともに時を刻みながら、たくさんの人とのつながりを深めてくれることでしょう。

三豊市W邸

2019年7月竣工

延床面積:169.01㎡(51.22坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:(株)菅組

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