住宅地に建つ タテに長い平屋の家

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綿雪の舞う2月の寒い日、お引き渡しをして2年のY邸に伺いました。

正面は間口6.37mと一見小さく見えますが、奥に長い平屋の住宅です。外壁はブラウン系の焼杉板で、落ち着いた佇まい。庭の植栽がやや寂しい季節ではありますが、石垣のワイヤーにはテイカカズラの蔦が冬色に染まり、美しく彩りを添えていました。

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photo:明るい光が差し込むピットリビングから、ダイニングや中庭、玄関横の和室を見る

奥に広がる光の大空間

玄関を入って扉を開けると、開放感のある吹き抜けのワンフロアが迎えてくれます。ダイニングキッチンからはバーベキューも楽しめる中庭とウッドデッキが広がり、それを囲むように、奥にピットリビングと子どもたちの部屋が2室。階上には広々としたロフトもあります。訪れたのは午後でしたが、中庭から陽の光が無垢の床に差し込み、フロア全体を明るく照らしていました。吸い込まれるように向かったピットリビングではペレットストーブの火が焚かれ、リビング全体をふんわり温かく包んで、愛猫のおもちちゃんがのんびりくつろいでいました。

リビングのソファーから中庭に目を向けると、大窓のガラス越しに、玄関横の和室で遊んでいる子どもたちの姿が見えました。「子どもの友達には遊びに来てほしいんです。様子が気にはなるけど、同じ部屋でいるよりこの距離感がちょうどいい。」

リビングの奥には、小さな畳の間。棚に並ぶのは、子育てがきっかけでご主人の趣味となったボードゲームの数々!ここだけでは納まりきらず、ロフトにも並べてあり、その品ぞろえはもはやお店が出来るほどです。奥様が好きなアートや絵画、絵本もあちらこちらに飾られており、聞けば一時期イラストの勉強もされたそう。「ここぞと言う時の熱量がすごいんです、私」とおっしゃったのは奥様ですが、ご夫婦それぞれの好きなことへの情熱を感じる一面でした。

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photo(左):ピットリビングで、愛猫(名前:おもち)と遊ぶ (右):玄関ポーチには、愛用のロードバイクが

タテに長い敷地の中で「楽しみつくした」家づくり

Y様ご夫妻は県外のご出身。仕事の都合で香川に来られ、この家からすぐ近くの賃貸物件で、子育ての初期を過ごされました。庭にはミカンや柿の木がある昔ながらの2階建ての日本家屋で、不便なことも工夫しながら楽しく暮らしていたそう。しかし共働きで忙しい日々の中、もう少し落ち着いて暮らしたいという思いもあり、新居計画を開始。

出合ったこの土地は2階建ての建物に囲まれており、かつ南北に長いという難しい土地でした。しかし、前の住居に近いので子どもの転校もなく、近所の方とも顔なじみ。紹介してくれたのが、知り合いの不動産屋さんとのご縁もご夫婦の背中を押し、決断されたそうです。

自分たちらしい家のコンセプトを考えた時に思ったのは、自然素材、無垢の木で、朽ちても自然に還ること。小さくてもシンプルで、ホッとする感じの方が自分たちらしい。そして、外に開いている家。地域と関わりながら、友人が遊びに来る家にしたいという方向性がみえたそうです。

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photo(左上):ダイニングからキッチンを見る (左下):小上がりの小さな畳の間。ワークスペースになったり、時には寝床になったりします。 (右):ストーブの火の向こうに見える子どもたちの様子が何ともほほえましい。

奥に長い敷地の中で「逆に分かりやすいコンセプトが出来ました」と、ご主人。ご夫妻らしい前向きで朗らかな人柄があったからこそ、この土地で納得のいく家づくりができたのかもしれないと感じました。

そんな風に家づくりを振り返ってくださったご夫妻は「楽しみつくしました」とおっしゃるほどで、ご自身で間取り図を描いたり模型を手作りされたりと、熱心に計画に参加。新居計画を始めてからは、建築家・伊礼智氏の家づくりや造園家・荻野寿也氏の庭づくりを好きになり、住宅雑誌や書籍を常に打ち合わせにお持ちになっていたそうです。家が近かったこともあり、建築中の家を子どもたちもよく見に来ていたと言います。「設計士さんも辛抱強くプロの目線で意見を出してくださり、職人さんたちが最後には私たちが描いたことを目の前で形にしてくれて、家づくりを家族みんなで楽しみました」

平屋にしたのは、前の日本家屋での生活で2階はあまり使わなかったのと、家族みんなが同じ空間でいるのが当たり前だったからだそう。幅が狭いけれど奥行きがあり、開放感のある空間なので、窮屈さは感じないといいます。小さいながら表の庭と中庭、それに裏庭もあるため、住宅に囲まれながら外とのつながりを感じられることも理由かもしれません。

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photo(左):真上から見た敷地の様子 (右):火を見る暮らしに憧れて設置したペレットストーブ。薪ストーブへの憧れもありましたが、「タイマー機能もあり、煤も少なくメンテナンスが楽で、今の忙しい私たちの暮らしに合っていて、とてもよかったです」と奥様

「決めない」自由で大らかな家

「お互い自由で居場所はそれぞれだけど、どう過ごすのかが分かる。家にいる時間が長かった時もストレスがなかったです。子どもたちも、外出しても家に帰りたがる。家が安心な場所と思ってくれてる点が、本当に良かったなと思います。前の家も素敵だったけど、今の暮らしは使い勝手が良くて、何より快適で安心。まだ2年しか経ってませんが、帰ると『あ~、我が家。』としっくり落ち着きました」と語る奥さまの顔はとても和やかで幸せそう。

居場所や使い方を決めないという自由な家から、いつか子どもたちも巣立ちます。ご夫妻も家庭菜園を楽しめるようになるかもしれないし、お二人の趣味が別の形になるかもしれません。暮らしの変化を楽しみながら、家族みんなが帰りたくなる大らかな平屋の家です。

坂出市Y邸

2019年8月竣工

延床面積:97.08㎡(29.42坪)
構造:平屋建て
設計・施工:(株)菅組

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