36年目の日本家屋に住む

良質な自然素材と熟練した職人の技で作られた日本家屋は、時を経るごとに味わいを増していきます。
S邸の玄関ポーチに使われた淡いピンク色の石は、今では貴重な岡山県産の「万成石」。「桜御影」とも呼ばれる日本の銘石のひとつです。
使われた素材ひとつひとつに職人の想いが感じられるお宅を訪ねました。

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城下町として栄えた丸亀市。丸亀城のお膝元に佇む一軒の日本家屋。その佇まいは36年を経ても色褪せることなく、むしろ堂々と日本人の心を写しだしていました。

日本家屋の伝統的な形には、お客様をもてなし、四季を楽しむ日本人の心があります。また、隅々まで職人の心遣いが行き届いた伝統技法の数々は、使いやすさを生むだけでなく、美しさも兼ね備えています。

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思わず息を呑む美しい玄関ホール。二つの障子窓から外光をやさしく取り入れ、訪れた人を心地よく迎え入れます。

座敷にある障子は格子の縁が面取りされており、その精巧さは、家を直しに来た大工さんが驚くほどです。柱は現地まで買い付けに行った尾州檜。節のない四方無地で、狂いの少ない芯去り材が使われています。

応接間の壁は「木擦漆喰(きずりしっくい)」。下地となる木擦(木の板を並べた状態)に直接漆喰を塗る伝統的な構法です。重ねた漆喰は2センチと分厚く、高級感があります。洋室ながら、和の素材と技術をふんだんに取り入れたシックな印象のお部屋です。

部屋や廊下ごとに違った表情をみせる照明は、すべて大工さんの手によるもの。その場所に合わせて手作りされています。竹釘を使うなど細やかなところにまで大工さんの技が見えます。

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中庭の見えるダイニングの席がSさんのお気に入りの場所です。ここで食事をしたり、手紙を書いたり、時折庭に来る鳥たちを眺めながら過ごします。小上がりの座敷は障子を閉めて個室として使う事も出来ます。太鼓張りの障子は組子の両面に和紙を張るため、桟の影がうっすらと浮かび上がり、柔らかな印象で和の空間と洋の空間をつなぎます。回りの桟を細くするために、本来は桟に付けられる取っ手は組子の一部として工夫して付けられています。

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日本家屋の伝統的な形には、日本人の心が表れています。明るい陽光が差し込み、季節のものが飾られた玄関はお客様を気持ちよくお迎えするため。また、自然とのつながりを大切にする造りも、四季のある日本ならではです。

厳しい日差しや激しい雨風などから家を守ってくれる深い軒、広い縁側、閉めきっていても自然光を取りいれる障子など、これらは内と外を緩やかにつないでくれる大切なもの。

ここで過ごすことで日本人の心を取り戻すような清々しい空気に満ちたお家でした。

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丸亀市S邸

1982年1月竣工
延床面積:541.54㎡(164.10坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:(株)菅組

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