小さな家の土間暮らし

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街中にありながら、喧騒をはなれ、木のぬくもりと炎のゆらめきに時を忘れるような、自然のやすらぎに満ちたご夫婦のお宅を訪ねました。

街にそっと佇むようにと希望された外観は、グレーのシックな外壁で風景に馴染みます。通りに面したデッキの素敵な暖簾は奥様の手作りです。季節ごとに模様を変え、訪れる人をおもてなししてくれます。

木製の玄関ドアの表面は「ちょうながけ」で仕上げられています。ちょうながけとは、本来は梁などに荒削りを目的として大胆に削る大工さんの技のひとつです。これを意匠的に施すことで、手彫りならではのランダムな削り跡が、穏やかに波打つ瀬戸内海のようなやさしい風合いをかもし出します。鉄製の取っ手も手仕事の見えるデザインで、やわらかい木の風合いの中に黒い鉄がアクセントとなっています。

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一歩足を踏み入れると、開放感のある吹き抜けのワンフロアが迎えてくれます。窓の外には表から見えていた暖簾が揺れ、ほどよい目隠しになります。広い土間はご主人の一番の希望でした。昔ながらの家の造りが好きで、特に土間のひんやりとした空気感が心地よく、当初から土間のある家を計画していましたが、せっかくならと、リビングやキッチンもまるごと土間にするプランになりました。ひとつながりの土間空間はデッキとも自由に出入りができ、望んだとおりの居心地の良い場所となりました。

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その他のアイデアは、15年間住んできた母屋の造りを取り入れています。薪ストーブのある吹き抜けのリビングや、スケルトン階段と落ち着いたグレーの手すり等、ほとんどが慣れ親しんだままのかたち。薪ストーブの位置は中心にし、どの部屋からも炎が見えるように丸いデザインのものを選びました。

また、自然素材をとりいれたいという思いから、内壁には和紙を使っています。庭に面した窓の障子は、以前当社の見学会で訪れた際に気になっていた障子を参考にしました。縦横の組子の数が少なくシンプルで、さらに外枠と内枠の寸法をそろえることで、閉めた時に一枚の障子のように見え、すっきりとした印象になります。

和風だけでなく様々な建築スタイルに馴染むデザインで、奥様の好きな北欧雑貨が並べられたインテリアとも調和しています。全体的にシンプルに見せたかったことから、メインとなる場所には照明を吊るさず、代わりに木目の美しい杉の天井を間接的に照らし、やわらかな光を部屋全体に広げています。1階にほぼすべての生活動線がまとめられ、どの空間にいても薪ストーブを中心にしたワンフロアで繋がり、仲の良いご夫婦の会話も絶えません。

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旅行が好きで、これまでたくさんの国へ行かれているKさんご夫婦。観光ツアーは使わず、自分たちの目と足で情報を集め、現地の方に聞いたおすすめの場所に行くことが多いそうです。予想外の事もたくさんありますが、その分記憶に残って後に良い思い出となり、その土地の事がもっと好きになるそうです。K邸を包む大らかな雰囲気は、そのようにして様々な文化と深く触れ合い、固定概念にとらわれない発想から生まれたのだと思います。Kさんご夫婦のお人柄が垣間見えるような心地よい木の家でした。

高松市K邸

2019年4月竣工

延床面積:75.40㎡(22.84坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:(株)菅組

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