時代と共に変わりながらも大切な想いを引き継ぐ家

先祖代々、大切に住み継いできた家をこれから先もつないでいけるように。
Oさんご夫婦は、伝統的な造りはそのままに、この家を住みやすく改修することにしました。大家族だった時代から夫婦2人の暮らしへと、家の中身は変わっても、受け継がれてきた想いは変わりません。
今は装いも新たなこの家から、ゆったりと外を眺める時間が2人の何よりの贅沢です。

増築された棟を撤去し広々としたウッドデッキに。家に余白が生まれた
先代からの日本家屋を活かしたい
のどかな田園地帯が広がる香川県善通寺市。由緒ある神社のすぐそばにあるOさん宅を訪ねました。なんといっても目を引くのは、どっしりとした瓦屋根。大工だったOさんの祖父と叔父が建てたという築64年のこの家は、伝統的な日本家屋らしく重厚な佇まいが特徴です。家の前のソテツや黒壁も美しく調和し、さらに存在感を際立たせています。
ご主人が幼い頃には多世代大家族で住んでいましたが、その後は一家だけで暮らすように。今では子どもたちも独立し、ご夫妻のみの二人暮らしになりました。ライフスタイルの変化に合わせ思い切って住まいをサイズダウンし、住み心地を向上したいというのがご夫妻の希望でした。
知人が菅組に勤めていたことから、初めは軽い気持ちで相談をしてみたというご主人。耐震性能への不安もあったことから、数年後、本格的に調査し、古民家改修を進めることになりました。「昭和時代の増築で風通しや日当たりが損なわれ、あちこちに傷みがきている状態でした。果たして改修が可能なのか、解体しなければいけないのではと気にかかっていて。そんなとき、菅組の設計士さんに『これは大工の技が詰まったすばらしい家。骨組みもしっかりしているし、適切に対処すれば耐震も問題ない』と言われました」

左:宮大工の仕事と思われる屋根の付いた戸袋は、そのまま残すことに 右:縁側の昔ながらの意匠はそのままに、断熱を施して快適に
暮らしやすく安心できる住まいに
改修にあたっては、菅組の他の事例なども参考にしながら住まい方を熟考。ダイニングキッチン、寝室、納戸と各部屋に役割を持たせ、空間をムダなく使えるようにシミュレーションしました。「増築部分に隣接した部屋がいつも湿っていて暗く、長年気になっていて。使っていない部屋も多く、家を活かしきれていないように感じていました」と奥様。そこで、家の北側を覆っていた増築部分を撤去。建設当初のかたちに戻すことで、通風・採光にすぐれた日本家屋本来の良さがよみがえりました。
心配していた耐震性能については、見かけを損なわずに家を強くする工夫が施されました。室内は元々ふすまで田の字に仕切られていましたが、縦横2辺に耐力壁を新設。さらに壁の上部は屋根の中引きまで延ばし、足下はコンクリート基礎でがっちりと補強。重い屋根をしっかりと支えられるようにしました。ご主人は「工程と進捗状況を常に細かく説明してくれて信頼できました。耐震補強も『ここまでやるのか』というぐらい、想像以上にやってくれて安心です」と感心しきり。とはいえ、梁や柱といった構造部分は先代が手がけた当時のまま。堅牢な木材と丁寧な手仕事が、今なおこの家を支えているのは間違いありません。

左:リビングとひと続きになった開放的な ダイニングキッチン 右:天井や飾り棚の工夫で広がりある玄関に。沓脱には古木里庫(こきりこ)で見つけたスギの古材を使用

上:座敷から南側を望む。 青々としたソテツは何代も前から受け継がれているこの家のシンボル 下:縁側にかけられたスギの丸太梁。 手鉋(てがんな)の跡が歴史を物語る
こだわりが光る心安らぐ空間
増築部分を撤去した北側の空間には、設計士の提案で新たにウッドデッキと軒屋根が設けられました。これがご夫妻の大のお気に入り。「軒先の直線のおかげで屋根がキリリと引き締まった印象です。高低差があるので、外からの視線も案外気になりません」と思わず笑みがこぼれます。
床や天井には断熱を施し、リビングにはご主人こだわりの蓄熱暖房機も設置。最小限の冷暖房で過ごせているといいます。また、手持ちの家具に合わせて設けた納戸や、玄関の飾り棚など、お気に入りポイントを挙げるときりがないほど。
かつて一番暗かった部屋は、ゆったりとくつろげるダイニングキッチンへと生まれ変わりました。家族が集まるときにも、賑やかな団らんの場として活躍しています。
一方で、独特な戸袋や縁側の大きな梁、凝った意匠のガラス小窓など、そこここに光る先代の手仕事も、この家の大切な記憶を今に伝えているようです。「座敷の壁飾りには、さらにもう一代前の家から採った囲炉裏の煤竹が使われています。そんな風に私たちも、この家の思い出をどこか残しながら次の世代に伝えていけたらいいですね」

左:代々農業を営むOさん。 母屋の東には大きな納屋と離れ家が連なる 右:精巧な欄間にはアクリル板を貼り、 空間ごとに断熱できるように
本来の明るさを取り戻した家
改修から一年経ち、一番幸せを感じるのは「リビングのソファに寝転んで窓越しにふと外を見るとき」とご主人。「本当に明るくなりました。開放的になって家が生き返ったようです」と奥様も微笑みます。実は今回の改修前に、お仏壇の改修とお墓のリフォームも行ったというご夫妻。この家がこうしてよみがえったのは、先祖と家族を大切にするお二人の想いがあったからに他なりません。
「この家は、今となっては二度とつくれないものかもしれません。その真価を分かり、一緒になって丁寧に向き合ってくれた菅組さんには感謝しています」。居心地のよいウッドデッキで、子や孫とバーベキューをするのが楽しみと語るOさんご夫妻。家も朗らかに笑っているようです。
場所:香川県善通寺市
竣工:2024年9月
母屋改修延床面積:126.67㎡(38.39坪)
納屋改修延床面積:95.08㎡(28.81坪)
構造:木造平屋建て
設計・施工:株式会社 菅組


